まろやかなお酒を味わい、
人生に泳ぎ切る
まるで生きているような魚たち
「何だ、これは!」と思わず感嘆の声をあげたくなるのが、ぐい呑「魚泳グ」です。
「魚泳グ」の底には、鯉・河豚(ふぐ)・鯛、3種類の魚が、気持ちよさそうに棲んでいます。古典蒔絵の文様を現代的にアレンジした、少し寸足らずで可愛らしい魚たちの風貌は、手にするひとに親しみやすさを感じてもらえるように、表情や動きにこだわって制作しました。
ぐい呑にお酒を注ぐや、にわかに立体感を持って現れるその姿は、まるで生きているかのよう。飲み口に顔を近づけていくに従いクローズアップされる魚と目が合い、つい話しかけたくなる有り様です。試しに器を軽く左右に動かしてみると、水面で立つ波のように揺らめくお酒にあわせ、底に沈んでいた魚が、ゆらゆらと身体をくねらせて泳ぎ始めます。
お酒を口にする前から、ふんわりと心がほころんでいく心地良さは、温泉に浸かっているようでもあり、酔い心地に包まれていくようです。

縁起と試練担ぎに込められた、
職人たちの人情
昔から日本のものづくりでは、幸運をつかさどる縁起や験担ぎの意味の込められた意匠を、器にほどこす習慣がありました。ぐい呑「魚泳グ」にも、見るだけで気持が晴々とするような、縁起の良い3種類の魚が蒔絵でほどこされています。
鯉は出世魚で、昔からめでたさの象徴とされています。「松に鯉」の文様で勝利(※松と鯉は勝利に通じるとされる)」や「鯉を松(恋を待つ)」など、様々な組み合わせでも使われてきました。
河豚(ふぐ)は、ふっくらと恰幅の良い姿が、富の象徴とされています。その愛らしさから「福(ふく)」に通じると親しまれてきました。
鯛は古来より、神への供え物に用いられ、「めでたい」の語呂合わせから、慶びごとの象徴とされています。
古くからの意匠の持つ、縁起や験担ぎの意味は、器を使うひとの幸せを祈る職人たちの、温かな想いを反映しています。
古典蒔絵を現代に復活させた「魚泳グ」にも、ぐい呑を手にしたひとに「お酒を楽しく飲んでいただきたい」と願う、私たちの気持ちが込められています。

漆の持つ口当たりの良さに、
お酒が進む
手にするひとの心を和ませる「魚泳グ」の本領は、ひとたび飲み口に触れると発揮されます。
唇にしっとりと馴染んでくる口当たりの良さに、自然と身体も緩むよう。
水分を取り込みながら固まる漆の作用により、器に口をつけるひとの水分を漆が吸収し、器とお酒とひと三位一体で溶けあう心地良さには、何やら陶然としてきます。
他の材質のぐい呑にはない肌馴染みの良さは、「魚泳グ」を持つ手にも感じられ、器の温もりに癒された心は、伸びやかに広がります。
日本酒は時間が経つにつれ、その味わいに変化が生まれますが、「魚泳グ」に入れたお酒は、漆器の持つ高い断熱性と保温性により、いつまでも本来の美味しさを伝えてくれます。
熱燗を入れても熱が伝わらず、冷やの場合には結露しにくくなり、より繊細にお酒の変化をグラデーションで味わえるのが嬉しいところ。
冷えた状態から常温に上がるときや、熱燗からぬる燗へお酒の温度が下がっていくときには、徐々に変化する口あたりや香り、キレのある旨味を、敏感に感じとることができます。
漆に抱かれて、心が泳ぎだす
触れたひとの心を開かせる、ぐい呑「魚泳グ」。旨いお酒と漆の持つ柔らかな口当たりのせいでしょうか、これまでは本当の意味でお酒の楽しさをわかっていなかったという気にもなってきます。
様々なタスクをこなし、疲れて帰った家で流し込むように飲むお酒や、接待で頭の隅が冴えたままで飲む酒の場には平安がない。
ネクタイを緩めても、心と身体が緊張していたら、酒に酔っているとはいえないだろう。
お前、どうせ飲むなら、気持ち良く飲みたいじゃないか。
腹の底から出た自分の問いかけに、素直に頷いている、もうひとりの自分がいます。
ぐい呑の底でこちらを見つめる魚も、心なしか尾ひれを振って、応援しているような。
……色々な荷物を降ろして、やりたいことをやってみようか。
大して飲んではいないのに、もう心が軽くなるよう。
それが酔いのせいだけではないことを、本人は知っています。