自然と時代と交信する
塗師屋スピリットを器に込めて
バック・トゥ・ザ・ネイチャー、バック・トゥ・ザ・ルーツ
江戸時代から現在にいたるまで、塗師屋(ぬしや)は行商の旅すがら世の動静を肌で感じ、ひとびとの想いを掬いあげては、輪島塗の意匠に込めてきました。
「太陽の器」にも、工業化と都市化が進む現代社会においてむしろ強まる自然への想いを込めています。
器のモチーフは、生命力の象徴とみなされ、古くから世界中で信仰されてきた、太陽。
とりわけ日本では森羅万象に神が宿ると考えられ、ひとびとは太陽を「お天道さま」と呼び親しんできました。
私たち日本人は古来より、太陽を尊び、自然と共に生きてきたのです。
ところが、二十世紀の高度経済成長期に入ると、社会全体が経済活動を優先するあまりに、その精神を失いかけました。
バック・トゥ・ザ・ネイチャー、バック・トゥ・ザ・ルーツ。
ようやく、方向転換をするときが訪れたように思います。

洗練されたプリミティブ
とかく絢爛豪華な印象を持たれがちな輪島塗ですが、どこか野性味を帯びた「太陽の器」は、洗練されたプリミティブ(原始的感性)とでも呼びたい風格を備えていると自負しています。
太古の自然エネルギーを放射するかのようなデザインと、器のなかで息づく漆の生命力は、私たちの身体に眠る縄文人のDNAを、覚醒させるのかもしれません。
直径37センチの大皿は気負いのない雰囲気を漂わせ、変わり塗の技法「研ぎ出し」(※木地に漆で模様を作り、何層にも色漆を塗り重ねた後に炭で平滑に研ぎ(磨き)、現れた層で模様を表現する)を用いて、太陽をかたどっています。
天候や湿度に影響される漆をその都度調合して器に塗り込め、塗り上げた面の状態を手で確かめながら磨き上げるため、模様の浮かび具合は1枚ごとに全て異なります。
太陽が2つとないように、「太陽の器」もまた、世界でただひとつの器です。

使ってよし、眺めてよし、暮らしを照らすお日さまパワー
「太陽の器」は、現代の暮らしに溶け込む輪島塗を求めて、「食卓と住空間を照らす太陽のような存在の器」のコンセプトをもと、田谷家9代目が職人たちと考案しました。
使うときはもちろん、それ以外でも部屋を明るくするようにとの願いを込めて、伝統的な輪島塗にはみられない、平面的なフォルムを採用しています。
あえて高台(こうだい ※器の下につけられた台)をなくし、お皿の縁に丸みをもたせず、フラットな形状にすることで、飾り皿としても違和感のない器に仕上げました。
無国籍なテイストを漂わせる平らなフォルムは、オードブルやサラダ、肉や魚のグリル、フィンガーフードや寿司など、どのようなジャンルの料理を盛り付けてもサマになります。
食卓に登場しないときには付属の皿立てに立てかけると、インテリアのフォーカルポイント(※床の間や暖炉など視線の集中する場所やモノ)となり、空間に華やぎが生まれます。
使ってよし、眺めてよし。それがこの器です。
大地と深く結びついた輪島塗がこの一枚に凝縮
かつて北前船で行商の旅に出た塗師屋は、海上を照らす太陽を仰ぎみては、航海の無事を祈りました。「太陽の器」には、能登の地に暮らすひとびとに脈々と伝わる、自然への感謝と畏怖の気持ちも込められています。
大地と深く結びついた輪島塗の在りかたに共感を寄せてくださるお客さまの支持を得て、この器は進化してきました。
年齢・性別を問わず幅広い層に支持され、「他の色も作ってほしい」とのご要望を受けて、当初「赤」のみで展開していた器に近年「青」「錫(すず)」のバリエーションが加わりました。
「去年は赤を購入したから、今年は青いほうにしようか」
1枚ずつイヤープレートのように揃えたり、色違いをセットにして贈り物としてお求めになられたり、飾り皿として愛用されるなど、大勢のお客様が心の赴くまま、自由にこの器と付き合われているおかげで「太陽の器」は田谷漆器店のロングセラーとなっています。
その様子を見聞きするたびに、私たちは新しい時代への希望を肌で感じます。
漆を通して自然と対話し、お客さまとの双方向のコミュニケーションを行い、カタチにする。
塗師屋が原点に立ち返る器として、これからも大切に作り続けたいと思います。
