既成概念に従うず、
自分流の使い道を発見する愉しみ
食器にもある「食わず嫌い」
ご家庭にありそうでないもの、それは漆器の大ぶりなお椀ではないでしょうか。味噌汁を入れるための汁椀はあっても、それより大きなサイズとなると、陶器のものしか揃えていないご家庭は、少なくないはずです。仮に大きめのお椀を差し出されても、使いみちがわからない、何を入れてよいのか見当がつかない。だから我が家には必要ない、と考えられる方もいらっしゃるでしょう。
誰もが無自覚な器の食わず嫌いは、いったいなぜ起きるのか。もしかしたら、この国の食生活の欧米化が、ひとつの原因なのかもしれません。
洋食器では、食器は用途にあわせて機能別に分類されます。食べ物を切るときにはフォーク、すくうときにはスプーンなど、カトラリーだけをみても種類が分かれています。
一方で和食器は、箸一膳で、食べ物を切る・すくう・つまむ・挟むなどの作業を兼ねるように、用途別に分かれてはいても、洋食器ほど細かく分類されてはいません。
であれば私たち日本人は、もっと柔軟に器と付き合える素養を持っているのではないでしょうか。

古いからの日本の生活の知恵
「一器多用」の精神
日本では古くから、器の使いみちを固定せずに、使いまわす工夫がなされていました。
別の使い方はできないか、他の器の代用として用いてはどうだろうなど、ひとびとは器の使いみちを、自由に想像していたのです。
あるものを何か別のものに見立てる、日本に伝わる伝統的な「見立て」から派生した、「一器多用」(一つの器で複数の用途に対応する、器を使いまわす)の精神は、しっかりと生活に根付いていました。
ひとつの器に注目し、幾通りもの用途を考える行為は、単調になりがちな日常にクリエイティブな喜びをもたらします。きっと先人たちは器を使いまわすうちに、愛用する品への思いを深めていったのでしょう。
ひるがえって現代の日本では、物が溢れているにもかかわらず、日常生活で好奇心や遊び心を発動する機会は、あまりないように思えます。
決められてもいないルールに縛られて、創意工夫の喜びを封印してしまうのは勿体ない。
この辺りで「一器多用」の精神を、復活させてみてはどうでしょう。

大きさ・デザイン・軽さの、
三拍子揃った頼もしさ
お椀「歳月」は、「一器多用」を意識し、標準的な汁椀よりも一回りほど大きい、約5寸(直径14.5cm)のサイズで作りました。小さいお椀には入りきらない料理にも対応できるように、丼のような器にしてあります。
たっぷりとした容量に加えて、和食以外の様々な料理にも合うように、見た目にも工夫をこらしました。
丸みを帯びた逆三角形の「歳月」独特のシルエットは、高台(こうだい ※器の下につけられた台)を目立たせないことにより、和のテイストを強調しないシャープな輪郭を備えます。なだらかなに口縁(こうえん ※器の縁)へ向けてカーブを描くラインを、お椀下部に刻まれた横線がすっきりと引き締めています。ご飯を盛ったときにも箸を斜めに入れて食べやすいように、「端反り」(はぞり ※外側に器の縁を反らせる技法)を用いた、末広がりに開いた口縁が、器に伸びやかなタッチを加えています。
そのサイズ感から、重さを心配される「歳月」ですが、漆器の性質上、重量は同じサイズの陶器の約半分と軽いため、お子様や女性、高齢者の方でも扱いには困りません。
大きさ・デザイン・軽さの三拍子が揃った頼もしさは、まさに「一器多用」な器です。
また今回は、滑らかな口触りが楽しい輪島塗のスプーンも、セット価格にてお付けしています。

カレーライスをお試しあれ!
温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいままで、いただける喜び。
食べ終わるまでに時間のかかる料理は特に、高い断熱性と保温性に優れた漆器の器でいただくと、違いがわかります。
温度管理は味付けよりも、料理の美味しさを左右するかもしれない。
「歳月」を使っていただくと、そんな発見をしていただけるかもしれません。
うどん、蕎麦、おでん、卵丼、ちらし寿司、ガスパチョ、ポテトサラダ……。
見かけよりも大容量でよくばりな器は、何を入れても大らかに受け止めてくれます。
意外なものではカレーライスも、この器と相性の良い料理です。
輪島塗のお椀にカレー! と、しり込みされるかもしれません。でも、これが実にいいんです。
途中でカレーが冷めだし、ルゥがもったりすることなく、最後のひと匙まで美味しく食べられる。
金属のスプーンと陶器のお皿の当たる耳ざわりなカチャカチャ音も聞こえず、ひたすら食に没頭できる幸せは、お試しいたただけたら、わかってもらえるはず。
ひとりの意識の変化は、バタフライ・エフェクトにより、次のひとりへと伝わっていきます。
今度は貴方が、漆のお椀でカレーライスを食べて、周りを驚かせてみませんか。
